我が家では、ASDタイプの息子と会話が急に通じなくなることがあります。
日頃はまったく問題なく会話しているので、突如として通じなくなる感じが、困惑の度合いを高めます。この手の通じなさは、息子の他は、夫(特性あり)以外には経験したことがありません。
今回は、ASDタイプとのディスコミュニケーションの原因、ディスコミュニケーションの実例と発言の背景にあるASDタイプの思考について、ひとつひとつ細かく紐解いてご説明します。
ディスコミュニケーションの原因
息子の国語の読解力は低くなく、検査(WISC-IV)でも言語理解は通常値を示しており、息子の言語能力になにか問題があるというわけではありません。
通じない原因は、物の見方や捉え方の相違、わたしたち親子の脳のスペックの違いにあります。
常に相違がコミュニケーションを阻害するのであれば、相違に対して意識が働きますが、常時ではないのが実は最大の難点です。
例えば、外国の方に対するときには、様々なことに注意を払いながらコミュニケートしますよね。それは相違があると予め認識しているからです。コミュニケーション自体は難しいけれど、対策は講じやすいのです。
いつもは同じなのに、突然相違が顔を出すので、急な変化に対応する難しさに直面します。野球のイレギュラー球に対応するような難しさなのです。
イレギュラーパターンなので、経験値が積みあがるまでに時間を要するのも悩ましいところです。
では、次に具体的に脳タイプの相違により、どんな具合に不都合が生じるのかを我が家の実例でご説明します。
【実例】ディスコミュニケーションの詳細編
自宅から新しい習い事のお試し講習へと向かう途中、何の気なしにはじまった親子の会話の中で突如ディスコミュニケーションが発生しました。
まずは、ディスコミュニケーションの全貌を見てみてください。
子)『B地点(今日の目的地)にはどうやって行くの?』
⇒ さっきもう説明したじゃん…とイラつきがちなところを気を付けて対応しました。特性的に、新しい場所を訪れるのが不安だから何度も確認してしまうのです。母がするべきは、不安を解消してあげることです。
母)『●●駅から●●駅を経由して行くよ』
母)『A駅(学校の最寄り駅)から行くほうが近いよ』
⇒ ついでに、学校から直行したら…の情報を提供しました。
子)『だったら、A駅に行ってから行けばよかったね。』
母)『は?なんで?』
⇒ 方角が全く違うし、なぜそんな話が出てくるのか?謎でしかありませんでした。また、事前に調べて比較検討して選んだルートなので、心情的には難癖をつけられたような感覚もあり、正直、ここではついイラっとしてしまいました。
子)『だって、定期券があるから、そっちのほうが安いよ』
母)『?????どうしてお金の話になっちゃうの?そんな話出てないよね』
⇒ どういう経緯でそんなふうに会話が脱線したのか?まったく分かりません。
子)『話を変えたと思った』
母)『どういう意味?なにも変えてないよ』
子)『は?どういう意味?』
以上がディスコミュニケーションの実例でした。
ディスコミュニケーションは、即座に解明するのは極めて困難です。
この後、しばらくの確認作業の結果、どんなすれ違いが発生していたのか?を解明することができました。
【実例】ディスコミュニケーションの解析編
子)『B地点(今日の目的地)にはどうやって行くの?』
母)『●●駅から●●駅を経由して行くよ』
『A駅(学校の最寄り駅)から行くほうが近いよ』
⇒ 通うとしたら自宅からではなく学校から習い事に直行する見込みでした。ここに記載していませんが、この会話の直前に移動距離をネガティブに感じているニュアンスの発言があったので、通う意欲が削がれないよう、 “学校からなら遠くない” という情報を提供する意図でした。
A駅の名称を出せば、「学校から直接行くときはってことだね!」と想像するだろうという甘い読みがありました。振り返ると言外の情報がこんなにも多かったのかと、今改めて反省しました。
発言の意図が汲めず、息子には唐突な展開に思えて、少し混乱したのかもしれません。“でも、なにか言わなくちゃ” という気持ちが働いたものと想像します。
ここでポイントは、わたしが『近い』という言葉を用いている点です。
このワード選択がディスコミュニケーションを生んだと今ならわかります。
『近い』は『早い(移動時間が短い)』という意味合いで使っているのですが、息子は…
『A駅(学校の最寄り駅名)から行くほうが近いよ』を
『A駅(学校の最寄り駅名)から行くほうが安いよ』と捉えてしまったのです。
こう想起したのは、最近、口を酸っぱくしてお金の使い方についてわたしが言って聞かせていたからだと思います。わたしの想像しているより、ずっと素直に一生懸命考えてくれていたようです。
子)『だったら、A駅に行ってから行けばよかったね。』
⇒ 母の急な話題転換に困惑しつつも、息子はそれまで楽しく進んでいた会話をそのまま続けたくて、楽しい雰囲気を損なわない “交通費を安く済ませられるステキなアイデア” をチョイスしたのだと思います。話の流れに沿うのではなく、なんとなく関連していそうな話題をチョイスするという微妙なズレがまさにASDタイプの特性だと思います。これは話の脈絡を辿ることが難しいことに起因しています。
ちなみに息子の話の趣旨は、自宅からB地点(ルート1)より、A駅からB地点(ルート2)のほうが近いということは、定期でA駅まで行ってからB地点に向かう(ルート3)と交通費が安く済むということでした。(下図)
わたし(母)がA駅への定期券を持っていないことが抜け落ちてはいますが、独特ではあるものの、この一瞬の間でここまでの情報処理をしているのは、高いワーキングメモリがなせる業なのかなと思います。
以降のやり取りで、息子の返答がチグハグな印象を与えるのは、母の反応にいよいよパニックになってしまったからです。
母)『?????どうしてお金の話になっちゃうの?そんな話出てないよね』
(・・・・中略・・・・)
子)『話を変えたと思った』
母)『どういう意味?なにも変えてないよ』
子)『は?どういう意味?』
『話を変えたと思った』という発言に至るまでに、実はもっとやりとりがありましたが、ここでは割愛させていただきました。
確認作業の出だしは『(僕が)話を変えたと(僕が)思った』という意味だと説明されたり、確認作業は混迷を極めました。紆余曲折を経て、意味の分かる確認がとれた大枠を上記でご紹介しています。
『話を変えたと思った』というのは、前段の以下やりとりを受けていました。
話者 | 会話 | 母の 認識 | 子の 認識 |
---|---|---|---|
子 | 『B地点(今日の目的地)にはどうやって行くの?』 | 行程 | 行程 |
母 | 『●●駅から、●●駅を経由して行くよ』 | 行程 | 行程 |
母 | 『A駅(学校の最寄り駅)から行くほうが近いよ』 | 行程 | 料金 |
確かに話題転換ではありましたが、行程の話から一気に、『(母が)話を(お金の話に)変えたと思った』ようです。
もっと分かりやすくするために、以下に、通しで全体を双方の言外のセリフを含めた形式でまとめましたので、お読みください。
【補助説明付き】ディスコミュニケーションの全貌詳細
丸カッコの中は、発言されていない言外のセリフです。
子)『今日の目的地にはどうやって行くの?』
母)『●●駅から、●●駅を経由して行くよ』
母)『(ちなみに)A駅(学校の最寄り駅)から行くほうが近いよ。(だから通うのは今日ほど大変じゃないよ、心配しないで大丈夫!)』
子)『(どうして急にA駅の話が出たの??ちょっとパニック。近いってことは、安いって話か!…目的地はA駅からのほうが近いなら、A駅から行ったほうが定期券があるから安上がりじゃないか‼発見しちゃった‼)だったら、A駅に行ってから行けばよかったね。』
母)『(どっからその発想が出た?)は?なんで?』
子)『だって、定期券があるから、そっちのほうが安いよ』
母)『?????どうしてお金の話になっちゃうの?そんな話出てないよね』
子)『(母が)話を(お金の話に)変えたと思った』
母)『どういう意味?(わたしは話を)なにも変えてないよ』
子)『(なにも変えてない???)は?どういう意味?』
【まとめ】息子へのアドバイスとわたしの反省
全貌を把握することができて、やっと一安心。
今回のディスコミュニケーションが発生した理由は、息子の以下特性へのわたしの配慮が欠けていたからです。
また、息子には以下のように伝えました。
急に話が変わったと思って、驚いたんだよね?それに何の話か分からなかったんだよね?分からないまま当てずっぽうで会話を進めて、噛み合わなくなっちゃうのは残念だから、素直に分からないなら聞くのが確実だよ。
「A地点からのほうが近いって、安いって意味?」って。
そしたら「違うよ、移動時間が短いってことだよ」って教えてあげられたよ。
母であるわたしは、赤くした丸カッコの中を全部声に出して伝えてあげる必要がありました。
相違を前提に、注意深く、言外の情報をつくらないコミュニケーションを心掛けないと、今回のようなディスコミュニケーションが発生することを再びインプットしました。
これまでの子育ての学びや気付きをこのブログでご紹介することで、同じ境遇の方のお役に立てたらうれしいです。